炭素工具鋼は、特殊鋼の一種(特殊鋼のご紹介はこちらになります)で、その高い硬度、耐摩耗性、弾性で知られています。冷間圧延される特殊帯鋼の中で最もよく使われる鋼材です。日本では、S(Steel=鋼)とK(Kougu=工具)の頭文字をとってSK材と呼ばれています。海外では高炭素鋼(High Carbon Steel)や工具鋼(Tool Steel)と呼ばれる事もあります。このページでは、炭素工具鋼の概要、鋼種ごとの化学成分、対応可能な寸法・形状、失敗しないSK材の調達方法(弊社の品質へのこだわり)などについてご紹介します。
炭素工具鋼は通常、熱処理を施して所望の特性(硬度、耐摩耗性、弾性)を得ます。熱処理工程では、鋼材を高温に加熱した後、水、油、または特殊な氷点下の環境で急冷します。この処理によって鋼材は硬くなりますが、同時にもろくもなります。もろさを減らす(=靭性を高める)ために、鋼材はその後、焼き戻し(再び加熱・冷却)致します。
炭素工具鋼は、要求の厳しい幅広い用途に適した高品質の鋼です。要求される硬度、耐摩耗性、靭性を考慮し、特定の用途に適したSK鋼種を選択することが重要です。また、SKをベースにした派生鋼種もあります。SKS(切削工具用として耐摩耗性、耐衝撃性が高い)、SKD(ダイス、金型用として高温環境下でも硬度が高い)、SKT(鍛造用金型、ダイブロック用として加熱、冷却による熱衝撃に強い)等です。
尚、炭素工具鋼は熱に弱い(炭素工具鋼は200℉以上の温度で焼戻しされ、硬度が低下する)という弱点があります。200℃以上での硬度を維持したい場合は、通常SKH(ハイス鋼)を使います。SKH材は200℃から600℃まで硬度を維持できます。
炭素工具鋼は、刃物、切削工具、バネ、その他の高性能を必要とする工具など、幅広い用途に使用されています。
SK材は炭素含有量によって等級分けされ、SK140が最も炭素含有量が高く、SK65が最も炭素含有量が低い。炭素含有量が高いほど、鋼はより硬く、より耐摩耗性が高くなりますが、より脆くなります(ガラスに近いイメージ)。炭素工具鋼の硬度は炭素含有量によって徐々に増加しますが、耐摩耗性と耐衝撃性は炭素含有量によって大きく異なります。
下表は、SK65(SK7)からSK140(SK2)と世界の相当鋼種との化学成分の比較表です。化学成分はSK材を基準としており、相当鋼種は炭素含有量によって分類され、その他の化学成分は若干異なる場合もあります。また、焼入れ焼き戻し後の硬度についても参考値として付け加えさせて頂きました(HRC値)。
Steel Grade | C | Si | Mn | P | S | Cr | Ni | HRC* |
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SK65 (SK7) W1-7 1065 060A67 060A72 C70W2 1.1620 C70E2U TC70 | 0.60~0.70 | 0.10~0.35 | 0.10~0.50 | ≦0.030 | ≦0.030 | ≦0.30 | ≦0.25 | ≧56 |
SK75 (SK6) W1-8 1075 060A81 C85W 1.1830 X75 TC80 | 0.70~0.80 | 0.10~0.35 | 0.10~0.50 | ≦0.030 | ≦0.030 | ≦0.30 | ≦0.25 | ≧57 |
SK85 (SK5) W1-8 1085 060A78 060A81 C80W1 C80E2U TC80 | 0.80~0.90 | 0.10~0.35 | 0.10~0.50 | ≦0.030 | ≦0.030 | ≦0.30 | ≦0.25 | ≧59 |
SK95 (SK4) W1-9 1095 C105E2U TC105 | 0.90~1.00 | 0.10~0.35 | 0.10~0.50 | ≦0.030 | ≦0.030 | ≦0.30 | ≦0.25 | ≧61 |
SK105 (SK3) W1-10 1,407 105CR2 1.3501 C105E2U TC105 | 1.00~1.10 | 0.10~0.35 | 0.10~0.50 | ≦0.030 | ≦0.030 | ≦0.30 | ≦0.25 | ≧61 |
SK120 (SK2) W1-11 1,407 125CR2 1.2002 C120E3U TC120 | 1.15~1.25 | 0.10~0.35 | 0.10~0.50 | ≦0.030 | ≦0.030 | ≦0.30 | ≦0.25 | ≧62 |
SK140 (SK1) C130W2 C140E3U TC140 | 1.30-1.50 | 0.10~0.35 | 0.10~0.50 | ≦0.030 | ≦0.030 | ≦0.30 | ≦0.25 | ≧63 |
HRC*は焼入れ・焼戻し後の硬さ参考値
形状は、コイル材、帯鋼、棒材(炉から出たばかりの鋳造ビレット材からみがき棒まで)、線材(丸、平、異形)を提案可能です。もし一覧にない特殊な形状、厳しい寸法や公差のために最適なサプライチェーンを構築するのが困難な場合でも、ご相談下さい。エンサーブにて世界中の製造パートナーのネットワークを活かした最適なサプライチェーンのご提案をさせて頂きます。
カテゴリ | 帯鋼 | コイル | 棒材 | 線材 |
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形状詳細 | みがき・焼入 | 冷間圧延 | 丸、平、六角等 | 丸、平、異形等 |
板厚 | 0.02~1.30mm | 0.25~1.50mm | 2.0~500.0mm | 0.0025~30.0mm |
板厚公差 | ±10% of T~ | ±0.012mm~ | TBA | TBA |
幅 | 8.0~1000.0mm | 1000mm~1250mm | – | – |
幅交差 | ±0.04mm~ | ±0.04mm~ | ±0.20mm~ | – |
仕上 | ブライト セミブライト ダル | BA, 2D, No.4 ヘアライン エンボス | ブライト ノンブライト | ブライト セミブライト ダル |
切削工具などの用途において、被削性、切れ味、耐久性を向上させるためには、工具鋼の炭化物をできるだけ小さく、均一に球状化(丸く)するため、球状化焼鈍をします。球状化焼鈍は、焼入れ・焼戻し工程の前に行う必要があります。球状化焼鈍を成功させる鍵は、十分な加熱時間とその後の穏やかな冷却です。
金属組織の構造以外にも、腐食(炭素が多い炭素工具鋼は錆びやすいです)、加工精度(鋼材は決められた公差範囲内でなければ使用できません)、予期せぬ変形(へこみやコイルの波打ちなど)や外観の問題があります。
QCD(品質・コスト・デリバリー)のご期待に応えるため、お客様のご要望を丁寧にお伺いします。
エンサーブは鋼材の専門商社として、高硬度、耐摩耗性、弾性を必要とするあらゆる用途にSK鋼をお勧めします。また、比較的お求めやすい価格の鋼材ですので、コストパフォーマンスにも優れています。
SK材についてご不明な点がある場合、またはお客様の用途に適した鋼種を選択する際にサポートが必要な場合は、ご遠慮なくお問い合わせください。お客様のニーズに最適な鋼種を見つけるお手伝いをさせていただきます。また、SK材含め入手困難な鋼種・寸法の鋼材もよく提案させて頂いております(参考事例)。お困りごとがあればご相談させて頂けますと幸いです。