鉄のつくり方:なぜ同じ鋼種でも鉄鋼メーカー毎に特性が違うのか

鉄という言葉にはさまざまな意味があります。

学校の化学の授業では鉄は原子番号26の元素Feのことですし、普段の生活ではスプーンや自動車のボディに使われている金属のことを鉄と呼んでいる人もいるのではないでしょうか。また、オーストラリアの茶色の広大な大地に埋まっている鉄鉱石のことを鉄という人もいます。

スプーンも自動車のボディも鉄鉱石も、主成分はFeですがそれぞれかなり異なります。

そこでこの記事では、トヨタ自動車やスタートアップで金属部材の調達を13年してきた筆者が経験談を交えながら、鉄とは何かについて明らかにします。 身の回りにある鉄はどのようなもので、どのようにつくられているのか解説します。また、なぜ同じ鋼種でも鉄鋼ミルによって外観や、加工性などの特性が異なるのか、そのヒントをご紹介致します。

鉄という言葉の最も正確な意味はFeで、この元素には重くて多いという性質があります。

まず重さですが、Feの比重は7.86です。比重は1立方センチの質量(単位はグラム)のことで、密度ともいいます。比重1は水です。したがってFeは、同じ大きさの水と比べると7.86倍重いことになります。

重い金属のイメージがある金(Au)の比重は19.32、軽い金属のイメージがあるアルミニウム(Al)は2.68なので、Feは重いほうといえるでしょう(参照1)。

次に多さですが、Feは地球上のすべての元素の5.0%を占め、これは4番目に多い量です。最も多い元素は酸素(O)で46.6%、2位ケイ素(Si)27.7%、3位アルミニウム8.1%です。

Feは多さこそ4位に甘んじていますが、比較的重いので地球の重量の3割を占めています(参照2)。地球のことをよく、水の惑星といいますが、実は鉄の惑星でもあるのです(参照3)。

Feのありか

Feの起源は、137億年前に宇宙に誕生した陽子と中性子です。陽子や中性子などからヘリウムと水素ができて、核融合という現象が起きてさまざまな元素が生まれました。さまざまな元素の1つがFeです。

地球に酸素が生まれると、酸素とFeが結合して酸化鉄ができそれが堆積して鉄鉱床がつくられました。

鉄鉱床は海のなかにできたのですが、15億年前に海底が隆起して地上に現れました。それがオーストラリアの茶色の広大な大地などの、鉄鉱石を多く含む鉱山です(参照2)。

鉄鉱石から鉄製品をつくるには

なお鉄鉱石とはFeを含むさまざまな物質からなる鉱物です。自然状態のFeは酸素以外にもさまざまな物質とがっちり結びついています。したがって鉄鉱石からダイレクトに鉄製品をつくることはできず、まずは鉄鉱石からFe以外の物質を取り除かなければなりません。それが鉄づくりの最初の工程になります(参照4)。

鉄製品はFeに石炭と石灰石が必要

スプーンや自動車のボディなどに使われる「製品としての鉄」は、鉄鉱石からダイレクトにつくることができないだけでなく、鉄鉱石からFeを取り出した純粋なFeだけでもつくれません。必要になるのは、石炭と石灰石です(参照5)。

石炭と石灰石を加える理由については一言でいうと「石炭は鉄鉱石からFeを効率的に取り出すため」「石灰石は不純物を取り除くため」となります。後段の「製品としての鉄をつくる」の章で詳しくご紹介致します。

日本では、石灰石は国内で調達しますが、鉄鉱石と石炭は全量輸入しています。日本の調達先の国は、鉄鉱石はオーストラリア、ブラジル、南アフリカなど、石炭はオーストラリア、インドネシア、カナダなどとなっています(参照6)。

世界的には鉄鉱石、石炭、石灰石がとれる国は以下の通りとなっています。
鉄鉱石:オーストラリア、ブラジル、南アフリカ、アメリカ、中国など

石炭:オーストラリア、インドネシア、カナダ、アメリカ、ロシアなど

石灰石:中国、アメリカ、インドなど

製品としての鉄を作る

鉄鉱石、石炭、石灰石などの原料で「製品としての鉄」をつくっていくのですが、この「製品としての鉄」にもいろいろな種類があります。

鉄製品をつくるメーカー(モノづくり企業)が使う鉄のことを鋼材というので、ここではこれを「製品としての鉄」と呼びます。

「鉄鉱石+石炭+石灰石」を以下のような加工をする事で「製品としての鉄」になります。

●「鉄鉱石+石炭+石灰石」

●事前処理をする

●高炉で銑鉄をつくる

●転炉で鋼をつくる

●鋼片にする

●鋼材(=「製品としての鉄」)にする

この作業をするには高炉というとてつもなく巨大な設備が必要になるのですが、それを持っているのは日本には3社しかありません。 「製品としての鉄」ができるまでを紹介します(参照5参照7参照8参照9参照10

事前処理で焼結鉱とコークスをつくる

鉄鉱石を溶かしただけではFeを取り出すことはできず、まずは事前処理が必要になります。ここで焼結鉱とコークスをつくります。

石炭を1,300度以上で蒸し焼きにしてコークスをつくります。続いて鉄鉱石を粉砕してコークスと石灰石を混ぜて焼き固めます。これが焼結鉱です。

石炭をコークスにすると発熱量が格段に上昇するので、高温を出すことができます。またコークスによって鉄鉱石からFeを取り出しやすくなります。 石灰石を入れると、鉄鉱石に含まれるシリカやアルミナといった不純物を取り除くことができます。

高炉で銑鉄をつくる

「製品としての鉄」づくりで使う設備で最も大きなものを高炉といい、高さ約100メートル、底面の面積はテニスコート1面分にもなります。日本で高炉を持っている会社は、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所しかなく、この3社を高炉メーカーと呼びます。尚、高炉メーカー以外は電気炉を保有し、電炉メーカーと呼ばれます。電炉メーカーがどのように「製品としての鉄」をつくるかは後程簡単に紹介します。

高炉のなかに、鉄鉱石と焼結鉱とコークスを入れて加熱します。コークスが入っているのでその温度は2,000度に達します。

そして高炉の底にどろどろになったものができ、これを銑鉄(せんてつ)といいます。

銑鉄は「製品としての鉄」の原型のようなものです。高炉は24時間365日稼働し続けるため、何年も使用し続けます。その為、高炉内に鉱石のカスが蓄積され続けるため、古い炉よりも新しい炉、メンテナンスされた炉の方が品質的には安定するようです。

話がそれますが、鉄鋼業界における脱炭素化において、高炉が果たす役割は大きいです。高炉は現状ガスを燃焼させるため二酸化炭素の排出が多く、各国将来的に高炉につかう燃料を一部水素に変更したり(燃焼後、二酸化炭素でなく、水が排出される)、大型電気炉の活用を検討しています。

尚、高炉の生産割合は中国(91%)、日本(75%)、欧州(57%)、米国(30%)となっています。高炉以外の割合は電気炉となっており、米国では顕著に電気炉をメインで生産している歴史的背景として、高炉に比べ炉の運用が柔軟にできる、材料となるスクラップが入手しやすいという点があります。

銑鉄を転炉に移して鋼をつくる

銑鉄の状態では硬すぎてもろいので、「製品としての鉄」として使えません。そこで、高炉から出てきた銑鉄を転炉に移して精錬という作業を行います。この作業によって銑鉄が鋼になります。

鋼は銑鉄より炭素が少なく、それで粘りが生まれ「製品としての鉄」として使えるようになります。

この工程では、銑鉄に含まれる、ケイ素、リン、硫黄といった不純物を除去します。転炉のなかに石灰を入れると不純物と化合して塊になるので、それを取り出すことで銑鉄から不純物を除去できます。その塊を転炉滓(スラグ)といいます。

転炉ではさらに、マンガン、シリコン、アルミニウムなどを加えて成分調整して鋼ができあがります。

鋼を連続鋳造設備で鋼片にする

高炉の容積は5,500立方メートルにもなり、高炉メーカーは1日に12,000トンもの銑鉄をつくります。そこから小分けにして転炉で鋼をつくるわけですが、それでもものすごい量になります。

鉄製品の材料は鋼なのですが、転炉でつくった鋼をそのまま、鉄製品をつくっているメーカーに渡しても加工に手間がかかります。

そこで高炉メーカーは、鋼をつくったあとそのまま加工していきます。

どろどろ状態の鋼を鋳型に流し込んで、形をつくります。このとき使う設備を連続鋳造設備といいます。連続鋳造設備で鋼を、半製品である鋼片にしていきます。

鋼片:ビレット、ブルーム、スラブ、インゴット

鋼片にはビレット、ブルーム、スラブ、インゴットといった種類があります。

ブルームの正式名称は条鋼圧延用鋳塊といい、断面が正方形(1辺130ミリ以上)の長い棒です。

ビレットの正式名称は押出用鋳塊といい、円柱形の棒です。ブルームより細い棒になります。

スラブの正式名称は圧延用鋳塊といい、角形断面の、厚さ50ミリ以上、幅300ミリ以上の板です。

インゴットの正式名称は一般原材料用鋳塊といい、メーカーの要望に応じて形をつくります。

鋼片から「製品としての鉄」である鋼材をつくる

鋼片でもまだ「製品としての鉄」になりません。鋼片を加工してつくる鋼材が「製品としての鉄」になります。

鋼材には、線材、厚板、薄板、丸鋼、棒鋼、鋼管などがあります。

鋼片と鋼材は次のような関係になります。

鋼片鋼材例
ビレット線材、丸鋼、棒鋼
ブルーム形鋼、ビレット
スラブ厚板、薄板
インゴット鋼管

日本の代表的な高炉メーカー3社は下記の通り鋼材を生産しています。

日本製鉄は厚板、薄板、棒鋼、鋼管、線材などをつくっています。

JFEスチールは厚板、薄板、鋼管、棒鋼、線材などをつくっています。

神戸製鋼所は厚板、薄板、棒鋼、線材などをつくっています。

各社量の多い自動車用途の鋼材を生産する事が多いです。加えて、各鋼材に加工する工程において外観の仕上がり具合や内部の性能に差が出る事があり、各鉄鋼メーカー加工ノウハウ・特注の加工設備を有しています。

そして食器メーカーや自動車メーカーなどのメーカー(モノづくり企業)は、自社製品の形状に加工しやすい鋼材を購入してスプーンや自動車のボディをつくります。

特殊鋼をつくる炉とは

ここまでに紹介した「製品としての鉄」は、いわば最もベーシックな鉄といえます。そして「製品としての鉄」には、Feにそのほかのさまざまな金属を加えてつくる特殊鋼があります。高炉メーカー・特殊鋼メーカーとも工程は若干異なりますが特殊鋼を製造する「炉」があります。

高炉メーカーの場合、鉄鉱石・石炭・石灰といった鉱物から銑鉄をつくり、転炉で不純物を除去した後に更にガス炉にて金属の成分調整(炭素の除去・必要な金属成分の追加)を行います。高炉メーカー以外は高炉ではなく電気炉を使うため、電気炉メーカーと言われます。鉄スクラップなどで満たした電気炉のなかに電極を差し込み、電極にアーク放電を生じさせます。このとき高温の熱が発生するので鉄スクラップやその他の金属が溶けて製品である溶鋼ができあがります。電気炉でできた溶鋼を更にガス炉にて成分調整を行います。高炉メーカー・電気炉メーカー共にこのガス炉にて成分調整を行う事を二次精錬と呼びます。鋼材の諸性質を決定する成分元素濃度を調整する最終工程にあたることから、二次精錬は特殊鋼を製造するための重要な工程となっています。

同じ鋼種でも曲げた時や、加熱した際にA社のものだと問題ないがB社のモノだと破損したり、期待した特性が出せない事があります。その差の要因の一つとしてこの二次精錬によるもの(不純物の除去具合、材料特性に記載されない微量な金属添加物が「隠し味」として使用される)があります。その為、お客様によっては「日本製鉄のSUS304」と指定される事もあったりします。

まとめ・エンサーブの役割

いかがでしたでしょうか?鉄というのは身の回りにありますが、製品としての鉄は純粋な元素記号のFeとかなり異なります。その原料は鉄鉱石・石炭・石灰石に加え様々な金属元素を加え、加工されてから使えるようになっています。またその加工方法も多岐にわたり、これからカーボンニュートラル社会に向けて更なる進化をしようとしています。

弊社ではお客様のQCD期待に沿った鋼材の提案を大事にしており、場合によってはこういった鉄鋼原材料の製造工程にまで遡ってお客様のお悩みの解決に取り組ませて頂いております。