あなたがステンレス鋼を使う理由

あなたがステンレス鋼を使う理由

ステンレス鋼の優れた機能の正体とは…

~ありふれた金属が世界をつくっている~

ステンレス鋼とは何か、という質問への回答にあたり、そもそも鋼(はがね)とはFe(鉄)にC(炭素)などを加えた金属です。ステンレス鋼とは、Cr(クロム)を10.5%以上、C(炭素)を1.2%以下含む鋼(はがね)です。(こちらのサイトで詳しく見られます)もしくはシンプルに、ステンレス鋼とは錆びにくい鉄、腐食しにくい鉄のこと という答えもあるでしょう。

実はもう一つ答があります。

ステンレス鋼とは、機能性と利便性に優れた魅力あふれる金属です。

ステンレス鋼は今となってはどこにでも存在するありふれた金属ですが、その正体を知ると、なぜこれが世界に欠かせない素材になっているのかが分かるはずです。

驚きの機能!錆びないのはCrが膜を作るから

ステンレス鋼の魅力はいくつもありますが、機能性に優れることはその筆頭と言えるでしょう。
ステンレス鋼は、錆びやすいFeを多く含むのに錆びづらい性質を持ち、この機能は驚異的といっても大袈裟ではありません。

Crが酸化からFeを守る

ステンレス鋼がなぜステンレス(Stainless,錆びない)なのかというと、酸化が進まないからです。
酸化とは、金属の元素が空気中の酸素と結びついて劣化してしまう現象のことで、これが錆びです。
Feは容易に酸化し、なおかつ長期に渡って錆び続けます。そしてステンレス鋼に必ず含まれるCrも金属元素なので酸化します。
ところがCrは酸化すると強力な膜をつくる性能があります。この強力な膜は『不動態被膜』という力強い名前が付けられているほどです。
ステンレス鋼にはCrが含まれているので、ステンレス鋼で作られた製品は全体が不動態被膜に覆われることになり劣化が進みません。

不動態被膜は薄く、安定し、しかも自己修復できる。

驚くべきことにこの不動態被膜の厚みは13ナノメートルしかありません。そのためステンレス鋼を加工する時に、邪魔にならないのです。
また不動態被膜は結晶構造を持たないので安定しています。つまりこの膜はステンレス鋼に“ずっと張り付いている”状態になります。
そして不動態被膜には自己修復機能が備わっています。
普通の膜は、膜が破られたら防御機能が失われます。
しかし不動態被膜は、破られたらすぐに再生します。ステンレス鋼のなかに含まれるCrがすぐに酸化して、また不動態被膜をつくっていくのです。
ステンレス鋼の不動態被膜はあたかも自然に発生し、ステンレス鋼を覆い、自然に自己修正するわけです。

魅力的な誕生の歴史

ステンレス鋼は200年くらいかけてじっくり開発されました。
200年前というと遠い昔のように感じるかもしれませんが、鉄は3,000年ほど前から使われていたので、ステンレス鋼は金属界では「若手」かせいぜい「中堅」ぐらいでしょう。(こちらのサイトで詳しく見られます)

1797年のCr発見から始まった

ステンレス鋼の重要成分であるCrは、1797年にフランスのボークランという人物によって発見されました。Crは紫、赤、黄など多くの色を持ち、ゴッホの「ひまわり」の黄色の絵の具にもCrが使われています。(こちらのサイトで詳しく見られます)

あまりにも便利だから原理が解明される前に普及した

Cr発見から20年ほど経過した1820年頃、イギリスの研究者ファラデーが、鋼にCrを入れた合金をつくり性質を調べました。
その後、ドイツでもCrを含む鋼の研究が進み、1900年代初頭にCrに耐食性があることを明らかにしました。耐食性とは腐敗しにくい性質のことです。(こちらのサイトで詳しく見られます)
しかしCrを含む金属に耐食性が生まれる理由は、長らく解明できないでいました。(こちらのサイトで詳しく見られます)
それでも鋼にCrを入れると便利な金属ができるので、ステンレス鋼は大量に生産され広く使われるようになったのです。
ステンレス鋼は、未知の元素だったCrを『鋼に混ぜてみよう』という発想から生まれ、『よく解らないけど、よい現象が起きているから量産しよう』という大胆な挑戦によって広まっていきました。
あまりにも便利だったので、原理が解明される前に普及していった形です。ステンレス鋼の機能が強く支持されてきたことがわかります。

種類が沢山ある

ステンレス鋼が200年に渡って使われ続けているのは、進化し続けているからです。
様々なニーズに応えるために成分比率を変えたり、別の成分を加えたりして、豊富なバリエーションをそろえるようになりました。
例えばマルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系といった種類があります。(こちらのサイトで詳しく見られます)
なお、ステンレス鋼の名称にはSUSがつくことが多く、これはSteel Use Stainless(ステンレス鋼)という意味です。

硬いマルテンサイト系

マルテンサイト系はCrとCを主成分として、Ni(ニッケル)を含まないステンレス鋼です。
硬くできるメリットがある一方で、ステンレス鋼のなかでは錆びやすい欠点があります。そのためマルテンサイト系は、硬さが必要だが短期間で交換できる刃物やノズルなどに使われます。
マルテンサイト系ステンレス鋼には、SUS403やSUS410などがあります。

軟らかいフェライト系

フェライト系はCrを主成分にしていて、Cの含有量は抑えられています。Niも含みません。
フェライト系は軟らかいので、プレス加工をする製品に使われます。
ただ軟らかいといっても鋼よりは硬いので、複雑な形状が求められる自動車のボディには使われません。(自動車のボディには鋼やアルミが使われます。)
フェライト系ステンレス鋼の代表格はSUS430です。

「ザ・ステンレス鋼」オーステナイト系は世界で最も使われている

Niを含むステンレス鋼がオーステナイト系です。これが世界で最も使われているステンレス鋼です。
Niを入れると、さらに錆びにくくなり、例えば海水にも耐えることができます。そのため長年に渡って使われる製品に用いられます。
スプーンやフォークなどの食器や自動車部品、建設資材、化学工業、食品工業、原子力発電、LNGプラントなどにオーステナイト系ステンレス鋼が使われています。(こちらのサイトで詳しく見られます)
オーステナイト系には、SUS304やSUS316などがあります。

200種近くある

ステンレス鋼にはその他に、二相系や析出硬化系といった種類もあります。
日本の規格(JIS)上のステンレス鋼の種類は約60種類ですが、世界では約200種類が規定されています。

ステンレス鋼は『すごいもの』に使われています

もしステンレス鋼が誕生していなかったら、世界は今とは全く違った姿になっていたはずです。
例えば自動車、鉄道車両、ロケット、原子力発電所は、人類の知見を総動員して作られた超高度な製品・設備ですが、ステンレス鋼がなかったら現在の性能を持たなかったでしょう。

自動車、鉄道車両につかわれいる

自動車のエンジンは、高温でも変化せず、軽く、耐久性が高い材料を使うと性能が向上します。
その条件をクリアするのがステンレス鋼で、エンジン部品にはSUS409LSUS430J1Lなどが使われています。(こちらのサイトで詳しく見られます)
また鉄道車両のボディはステンレス鋼で作られています。錆びないのでメンテナンス性に優れ、軽量なので省エネに寄与します。しかも鉄道車両は、自動車のボディよりは単純な形状なので、ステンレス鋼でも形づくることができます。
鉄道車両に使われているステンレス鋼は、SUS301LSUS304などです。

宇宙開発に不可欠な金属

ロケットなどの宇宙開発関連製品は絶対的な安全性が求められる一方で、軽さも重要になります。重いロケットは打ち上げにくいからです。
そのためロケットの部品にはアルミ合金が多用されていますが、アルミには軟らかいという欠点があります。そのためアルミニウムにその他の金属を混ぜてアルミ合金を作っているのですが、それでも強度が出ないことあります。
そのようなときは、多少重くなってしまってもステンレス鋼が使われます。
ロケットや航空金の部品に使われるステンレス鋼は超特別なものであり、『航空宇宙グレード・ステンレス鋼』と呼ばれることもあります。
航空宇宙グレード・ステンレス鋼にはAMS5659 15-5PHAMS5643 17-4PHといった製品があります。
名称の頭についている「AMS」とは、航空宇宙用材料規格(Aerospace Material Specifications)という工業規格のことで、厳しい条件をクリアした製品にのみ付与されます。(こちらのサイトで詳しく見られます)

過酷な現場に耐える力がある

政府などが昭和37年(1962年)に作成した原子力白書に「原子炉用材料の開発」という文があり、そこでステンレス鋼が紹介されています。
ステンレス鋼は“原子炉用としては小径薄肉かつ長尺のものが使用され、しかも精度が高く引張強さが高い”と高く評価されています。(こちらのサイトで詳しく見られます)(こちらのサイトで詳しく見られます)
原子力発電所の原子炉の部品は、苛烈な使用条件下に長期間さらされ続けても耐え抜かなければならないので、そこに使用される材料は厳しく審査されます。
ステンレス鋼はその審査をパスした素材です。
それから月日が経過した現代でも、原子力発電所ではステンレス鋼を使った材料が各所に使われています。(こちらのサイトで詳しく見られます)
原子力用316 原子力用304といった原子炉用のステンレス鋼が開発されたほどです。(こちらのサイトで詳しく見られます)(こちらのサイトで詳しく見られます)

まとめ~まだまだ磨かれていく人類の宝物~

世界を作っているステンレス鋼は人類の宝物と言えます。
しかし「ステンレス鋼伝説」はこれで完成したわけではありません。
ステンレス鋼は未だに進化を続けていて、ある大学は、金より錆びないステンレス鋼の開発研究に取り組んでいます。(こちらのサイトで詳しく見られます)
これからもまだまだ磨きがかかるはずです。

エンサーブの役割

エンサーブでは国内または海外で入手が難しいステンレス鋼をご要望の仕様に合わせて世界中から探し出します。もし安定供給、原価低減、品質改善の観点でお困り事があればお気軽にお問い合わせください。