かみそりサプライチェーンの知られざる事実

Shaving Razor Supply Chain has unknown history
カミソリ工場の知られざる実態とは

特殊鋼の用途は建築・工具・バネ等などと多岐にわたりますが、工具用を刃物に応用する事もできます。

シェービング用のかみそり刃も特殊鋼でできています。 「シェービング」は、性別、人種、年齢、宗教に関わりなく共通で行われます。多様に富み、分散化された自動車産業とは異なり、 かりそりのサプライチェーンは集約されています。

かみそりの製造企業は少数の世界的な大企業が市場の殆どを占有しています。また、材料となる特殊鋼も少数の特殊鋼メーカーがかみそり市場を占有しています。

かみそりの刃は薄さ(0.1mm)に関わらず切断機能があるため、鋼材を非常に硬くする必要があります。 自動車等と比較して小さな市場・技術的な難しさから、それほど多くの鉄鋼メーカーが生産することができません。

この記事では、1)かみそり技術の進化、2)かみそり主要メーカー、3)かみそり用ステンレス主要特殊鋼メーカー、4)その他のカミソリ刃特殊鋼メーカーを紹介します。

イメージにあるようなカミソリ刃は「安全カミソリ」と言われています。安全カミソリは1900年代にキング・キャンプ・ジレット(ジレット社創業者)によって発明されます。カミソリ刃は1960年代までカーボン材(炭素を多く含有、硬いが錆びやすい) で生産されていました。1960年代になると錆対策と経済性(カーボン材のようにすぐに錆びず何度も使える)からステンレス刃が発明されました。

両刃カミソリ

ステンレス刃の発明以降、カミソリ刃では耐錆性からステンレス刃が主流となっています。イメージにあるようなカートリッジ型カミソリは深剃りをする為1970年代に発明されましたが、カートリッジの中に複数のステンレス刃が納められています。もともと2枚刃からスタートしましたが現在は6枚刃、更にジェルが染み出るものなど進化し続けています。

カートリッジに収められた複数のステンレス刃

かみそり主要メーカー

世界のカミソリ市場における主要なメーカーはアメリカのプロテクター・アンド・ギャンブル社(以下P&G、ジレットなどのブランドを所有)、アメリカのエッジウェル・パーソナル・ケア社(以下エッジウェル、日本シェアNo1のシック、ヨーロッパで強いウィルキンソンソード、ペルソナ等のブランドを所有)、フランスのビックの3社があります。各社のビジネス規模を理解するため、グローバルでの消費者向けカミソリ関連の販売額を比較すると下記の通りとなります。

P&G : 6,440 mil USD (約8694億円、参照)

エッジウェル : 1,162 mil USD (約1569億円、参照)

ビック : 463 mil Euro (約648億円、参照)

上記の通り、P&Gが圧倒的なシェアを占めています。上記以外で、理美容や医療、宿泊などの業容用でもカミソリは使われておりますが、市場規模は小さい(推定1000億円)です。業務用で存在感のある日本の貝印やフェザーなど他のメーカーを考慮しても、P&Gは全世界のカミソリ市場シェアの60%以上を占めていると予想されます。 続いて、主要なかみそりメーカーの紹介を致します。

P&G

P&Gのカミソリは日本ではジレットブランドとして知られています。P&Gは世界最大の市場シェアを持っています。 本社は米国にあり、 26カ国に64の製造施設(かみそりを製造しているのは一部)があります。 P&Gは、各地域のかみそり会社を買収するか、アウトソーシング・業務提携することにより、現地生産しています。例えば、ロシアには以前カミソリ会社が複数ありましたが現在は殆どジレットに買収されています。他社と比較して、P&Gのかみそりの組立場所はドラスティックかつ頻繁に変化します。一方かみそり刃の加工場所はドイツ、アメリカがメインとなっております(参照)。

エッジウェル

エッジウェルは日本ではシックブランドとして知られています。エッジウェルは2番目に大きな市場シェアを持っています。本社はアメリカにありアメリカ、メキシコ、イスラエル、中国、チェコ、ドイツに合計12の製造拠点があります(参照)。日本国内においては長きにわたり、カミソリマーケットのNo.1シェアを占めています。

ビック

ビックは国内では文房具というイメージですが、カミソリも製造しています。ビックは世界で3番目に大きな市場シェアを持っています。本社はフランスにあり、フランス、ギリシャ、メキシコ、ブラジルに合計4つの製造拠点があります (参照)。

かみそり用ステンレス主要特殊鋼メーカー

カミソリ用のステンレスは、硬さの為カーボン約0.7%、耐食性の為クロニウムの約13%が含まれており、ステンレスの中ではかなりカーボン含有率が高いのが特徴です。このステンレス鋼は、以下3社が主要な特殊鋼メーカーとなっています。かみそり用ステンレス鋼の世界最大の生産メーカーはどこかというと、日立金属(プロテリアル)となり、圧倒的なシェアを占めています。以下の率はマーケットシェア率の見込みです。

日立金属 : 60-70% 日本生産
サンドビック : 15-25% スウェーデン生産
フェーストアルピネ(元ウデホルム) : 10-20% スウェーデン生産

以下、主要な特殊鋼メーカーの簡単な紹介を致します。

日立金属 (プロテリアル)

日立金属は現在社名をプロテリアルに変更していますが、ここでは日立金属と致します。日立金属は名前の通り、日本の特殊鋼メーカーです。その起源は日本刀の玉鋼(たまはがね)を作るところまで遡ります。生産拠点は島根県安来市にあり、古来より刀の材料となる鋼を出荷していました。玉鋼はたたら製鉄といわれる、砂鉄と木炭を土でできたシンプルな炉の中で3日間不眠不休で燃焼させて鉄を生産手法によりできています。そして玉鋼は鍛造により日本刀になり、その歴史は1000年以上となります。歴史的に安来市の鋼材は硬く刃物づくりに適していました。時代と共にカミソリ用母材も生産するようになりました。現在、日立金属は投資ファンドに買収される予定です。日立金属の親会社である日立製作所はドラスティックにグループ企業を入れ替える事で知られております。日立金属の低い収益性・今後のビジネスとのシナジーの弱さなど、理由は考えられますが、日立製作所は日立金属の株式を投資グループに売却する事が決定しています。買収により収益改善は当然取り組むでしょう。ビジネスの立て直しへの強いプレッシャー・強いマーケットシェアを利用して、カミソリ用ステンレス母材も値上げをする可能性があります。
(2023.09補足) プロテリアルは、新規顧客からの注文は受け付けず、既存顧客からの注文のみを受け付けているという噂があります。

日本刀を打つ刀鍛冶

サンドビック (アレイマ)

サンドビックは現在アレイマと社名を変更したスウェーデンの特殊鋼メーカーです。ここではサンドビックと致します。その起源は生産性の高い製鉄手法の発明に基づきます。創業以来、高い品質と鉄鋼の先端技術に事業をフォーカスしています。近くには良質な鉱山にも恵まれたのもあり、硬い刃物用製鉄で名を馳せる事になりました(話が逸れますが、日本の刃物マニアの中には昔のサンドビック製鋼材を使った刃物を好む方々がいます。その理由は過去サンドビックはスウェーデン鉱山からとれた鉱石から刃物用鋼材を生産してしているからと言われています。現代では鉱石の品質に関わらず、良質な刃物用鋼材を製鉄する技術が確立されていますが、それでも昔の素材の良さを活かしたサンドビック鋼材は違うとの事です)。サンドビックは新たな素材・生産手法の開発に努めた結果、ステンレス鋼材と多段式圧延機を開発しました。これらの発明を組み合わせる事でステンレス帯鋼(カミソリ刃の材料)が生産できるようになりました。経営は極めて安定していると言えます。採掘から圧延までサプライチェーンを垂直統合し、先端の切削工具を常に開発する事で高い利益率を確保しています。

スウェーデン鉱山の採掘場

フェーストアルピネ(元ウデホルム)

フェーストアルピネはオーストリアの特殊鋼メーカーです。 ただし、実際の製造はスウェーデンにある元ウデホルム社となります。ウデホルム社は金づちの生産からスタートしております。サンドビック同様、ウデホルムも近隣に良質な鉱山に恵まれ、良質な鉄を生産できました。地の利を活かして、ジレットとカミソリ刃用のカーボン鋼を開発した後、ステンレス鋼を開発した歴史もあります (参照)。ウデホルム社はその後、何度かM&Aを繰り返しています。まずオーストリアのボーラー社に買収され、その後オーストリアのフェーストアルピネに買収されました。カミソリ向けステンレス鋼の生産は今日もスウェーデンで続いています。現在50か国で500社の鉄鋼・エンジニアリングビジネスをし、利益もでています。元ウデホルムの帯鋼についても利益がでている為、今後も安定的に生産を継続すると思われます(参照)。

その他カミソリ刃特殊鋼メーカー

カミソリ向けステンレスは、これまでヨーロッパと日本の鉄鋼メーカーで生産されてきました。最近では、中国やインドの鉄鋼メーカーも品質改良に伴い参入しています。カミソリメーカー大手3社も、新興メーカーのステンレス鋼を採用するようになってきています。

カミソリ向けステンレスで重要な点は、硬度と加工性(研磨で刃がカケない、焼き入れで反らないなど)です。カミソリ用ステンレスの化学成分はインターネット上でも開示 (日立金属Gin 5、サンドビック13C26、ウデホルムAEB-L)されていますが、焼入れ後の硬度不足により、一般的に生産が容易でないのが実情です。

その理由は2つあると思われます。1つは、成分表に記載されていない、企業秘密となる化学物質がごくわずかに添加されている為です。

もうひとつは、カミソリメーカーの焼入れ工程で、熱を均一に伝えるために、製造工程で金属組織が十分に小さくなっている必要があります。また、母材を精度高く、金属組織をつぶさないよう圧延できるようにする事も配慮する必要があります。

まとめ

カミソリのサプライチェーンは生産量の割に絞り込まれており、その理由は主に母材と、母材を活かす圧延工程をつくる難しさからなります。帯鋼のサプライチェーンをつくりこむためには、母材と加工両方への理解が必要となります。弊社はニッチなカミソリ材・類似刃物材の提案が可能です。お困り事があればお気軽にご相談下さい。

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